親本から三年を経ての文庫化。脱幸福論とでも言うべきユニークな内容になっている。
 僧侶でもある著者は悩み事の相談を受けるうちに、ある姿勢に気づいた。幸福という鏡に我が身を映して、不幸を嘆いていることだ。著者は言う。幸福とは欲望の延長にあり、「到達したと思ったら逃げてしまう永遠の幻」。知足を知らぬ欲望ではなく、「楽」の境地を目指そう、と。「極楽」は誰でも辿り着ける状態だというのがいい。
 さて、具体的な「楽」の境地は直接本書に当たって頂くとして(個人的理解では温泉に入った時に思わず"極楽極楽"と呟くあの感じに似ている)、本書がユニークなのは題名の「まわりみち」部分だ。人生論のポイントは比喩の多用だと、誰かがしたり顔で書いているのを見てイヤ〜な気持ちになったことがあるが、本書はそんな娑婆っけに堕ちない。例えば実際にある魂の重さからアインシュタイン理論に飛ぶなど、生・老・病・死の悲哀と科学との間に架け橋があるのだ。
 悩み多き人のための開運書。しかし、人生から不安を除いたら今度は何も残らないという不安も……。玄侑和尚さま、この“もどりみち”は現代人特有の病なのでしょうか?


「週刊朝日」(朝日新聞社) 2006年12月22日号


 温水ゆかり[ヌクミズユカリ] フリーライター
「週刊朝日」(朝日新聞社)の週刊図書館「愛でたい文庫」を連載中。
「本の話」(文藝春秋)で「虎馬図書館 トラウマ・ライブラリー」を連載中。

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