命をつなぐ絆 ―― 患者と医師が信頼を築くために ――

<命をつなぐ絆―患者と医師が信頼を築くために>をテーマに、「新世紀を生きる――医療ルネサンス郡山フォ−ラ」が今月2日、福島県郡山市のビックパレットふくしまで開かれた。患者と医師とが心を通わせ、「医療不信」を招かない方法はあるのか。芥川賞作家で僧侶の玄侑宗久さんの基調講演の続き、専門家が意見を交わし、約360人の聴衆が議論に聞き入った。

基調講演

「医療」半分 「気」が半分

 医療で元気になれると思っている方がたくさんいると思いますが、「元気」になるために医療は半分しか役割を果たせないと思います。お医者さんは悪くなった時に対処してくれますが、お医者さんに行かなくて済む方法までは教えてくれません。
 20世紀は、西洋的なものの見方に限界がはっきりした時代でした。日本の医療は、明治時代に漢方医学から西洋医学に変わりましたが、西洋医学は、細菌を退治することにかけては東洋医学を圧倒的に上回りました。「テロリストを根絶する」という西洋は、医学に限らず、悪いものを退治することにかけては徹底的です。自分の細胞でありながら、言うことをきかなくなったがん細胞という「テロリスト」も外科手術や放射能治療という方法で根絶してしまうのです。
 ものには本質(物質)があるという発想の西洋に対して、東洋思想や仏教は、実際に起きている「出来事」(現象)を見ます。科学的に説明しようとする西洋は、「病気には原因があると考えます。西洋的な考え方の人は「カッパがいた」と言っても、そんなものいるはずがないと言うでしょう。でも、本人にはちゃんと見えたんです。
 東洋医学は、病の原因に、外から邪気が入る「外邪」と、「(内)気のよどみ」の2種類があると考えます。意識を動かすことで「気」は動き、血液も動くのですが、気の流れによどみが出来ると「病」になります。そのよどみは、ものごとを固定的に考えたときにできます。たとえば、「がん」だと説明され、そう本人が納得してしまった途端に脳内に確固とした病気のイメージが生きはじめ、本当に大変な病気になるのだと思います。
 よどみが邪気を生み、病になると、医療の出番となりますが、内気を整えるのはあくまでも自分の仕事で、医療に期待するものではありません。病は、起こっては消えますが、気をよどませて病をため込まないよう、気をふさがないことが非常に大事だと思います。
 「外邪」には西洋医学だけでは済まない状況になりつつあると思います。お医者さんが詳しいのは一般的なことで、自分の体を一番よく知っているのは自分自身です。お医者さんは外邪を退治してくれますが、自分の機嫌をコントロールし、内気を整えることが「健康の半分」という自覚を持てば、お医者さんとの接し方も変わってくると思います。
 治療より予防です。自らの力で元気になるということです。お医者さんへの接し方が変わることで、お医者さんも「病気の専門家」というだけでなく、会っただけで元気になってしまうような「元気の専門家」になってくれればうれしいと思います。

読売新聞 2005年12月25日

360人 会場埋め尽くす――医療ルネサンス郡山フォ−ラム

専門家ら活発に意見交換

 本紙福島版の年間企画「命をつなぐ絆(きずな)」と連動して、郡山市のビッグパレットふくしまで2日開かれた「新世紀を生きる――医療ルネサンス郡山フォーラム」では、約360人の聴衆が客席を埋め尽くす中、三春町在住の作家、玄侑宗久さん、日本医療機能評価機構理事長の坪井栄孝さん、医療消費者ネットワークMECON代表の清水とよ子さんが、「命をつなぐ絆――患者と医師が信頼を築くために」をテーマに活発に意見交換した。

「医者は半分しか治せない」 玄侑さん基調講演 期待持つ重要性訴え

 フォーラムは「養生を支える医療」と題した玄侑さんの基調講演で始まった。
 玄侑さんはまず、病気の原因として、西洋医学的な「外邪」(細菌など)によるものと、東洋医学的な「内気のよどみ」によるものとがあると解説。前者は医師による治療が必要だが、後者は「患者の意識が重要」だとし、「医者は病気の半分しか治せないことを患者は自覚して接するべきだ」と述べた。
 その上で、病気に打ち勝つ意識を持つためには、枠にはまった知識や既成概念を捨てることが重要だと主張。具体的病名や余命を告げられると病気が固定化してしまう例を引き合いに「自分の体を一番よく知っている患者が期待を持ち続けるべきだ」と、前向きな気持ちを持つ重要性を訴えた。ユーモアを交えた講演では、会場から笑いも漏れ、気の持ち方によって人の重さが違うと感じる実演では、来場者も舞台に上がった。




パネルディスカッション

清水さん「語り合うこと大切」
坪井さん「医師教育にも力を」

 前野一雄・本社医療情報部長の司会で行われたパネルディスカッションは「医療に求めること、患者に求めること」がテーマ。
 医師と患者の信頼関係の構築について、患者の立場から市民活動を続けてきた清水さんは「互いがまず語り合うことが大切」と指摘。医師から患者への一方通行の説明になりがちな現状を打開するため「患者がまず質問をし、積極的に話しかける努力をする必要がある」と語った。
 前日本医師会長の坪井さんも、医師の立場から「日本の医療は、患者が主体的になれるよう、どこまでしてあげられるかという点で(能力が)欠落している。医師の教育にもこれから力を入れていかなければならない」と語った。
 基調講演で触れられた心の問題について坪井さんは「がんは3割は治らないと言われるが、数字だけで見てはならない。心の問題も重要」と賛同。医師が余命年月を告げて枠組みをはめることについて、玄侑さんは「決して数字で言わないでほしい」と訴えた。
 信頼できる医師と出会う方法について玄侑さんは「結婚と同じで、一番のものを選ぶには限界がある。出会った後にどういう人間関係を築くかが大事で、その意味では患者側にも責任がある」と語った。
 フォーラムは予定時間を超える3時間近くに及び、会場の外には玄侑さんの著書を求める来場者の長い列もできた。

読売新聞/福島版 12月3日