壊れゆくお正月



 「三が日はなんとか休ませてもらえないでしょうか」「ダメ」「じゃあせめて元日。親戚が集まるんです」「あ、いいよ、そのかわりずっと来なくていいから。代わりはいくらでもいるんだ」これは地方のスーパーの経営者と従業員との間で、実際になされた会話である。大袈裟かもしれないが、こうして一家の主婦がパートを休めないため、お正月は確実に壊れてきている。
 私が子供の頃は、大抵の店は三が日は休んだものである。しかしその聖なる休日を、経済原理が見過ごすはずはなかった。抜け駆けして少しでも儲けようと競いあう。要するに、誰もが肚を据えられず、小心になったのである。
 昔は店が開いていないから不便で、そのせいもあって人々は買いだめし、歳徳神を迎えると言いつつ大勢で集まって飲み食いした。遠くに住む子供たちもそこへ行かないとご馳走にありつけなかった。しかし今はコンビニもスーパーも開いているから、べつに実家に戻る必要もないのである。
 今更コンビニに抵抗しても始まらないだろう。コンビニとは、おそらく今の日本人の根本原理なのである。
 しかしせめてコンビニの経営者にはお願いしたい。なんとか、元日だけは休んでほしい。今や開いている店にあえて行かない節度など客には期待できないから、経営者の皆さんにお願いしたいのである。どうかお正月をこれ以上壊さないでいただきたい。
 その際気になるのはお正月に大勢やってくる風来坊たちだが、彼らにもやはり、貰いだめしていただくしかないだろう。
 ここ数年元日にも開いていた店が、今年は閉まった。「しまった」というのが嬉しい叫びになったのである。あ、しまった、こんなこと文藝家協会の会報に書いたって、コンビニまでは届くまい。


「文藝家協会ニュース」(日本文藝家協会会報) 2005年1月号